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香港政府、中国の直接監督下に~国安法で有名無実化した一国二制度~

 反中政治活動を規制する香港国家安全維持法(国安法)が施行され、これを運用するための委員会と中国治安当局の出先機関が発足した。前者は中国政府高官が「顧問」として参加し、後者は現地に巨大なオフィスを開設。香港政府は事実上、中国の直接監督下に入り、「高度な自治」と「香港人による香港統治」を柱とする一国二制度は有名無実化した。

国安委に中国高官の顧問

 国安法は6月30日、中国全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で成立し、香港で即日施行された。一国二制度の基礎である香港基本法では、この種の法律は香港で制定するとされているにもかかわらず、中国側はこれを無視して北京で一方的に制定した。香港政府と親中派政党は反中勢力を抑えられず頼りにならないと判断して、自ら超法規的な立法を断行したのだ。

 国安法に基づいて、香港特別行政区の国家安全維持委員会(国安委)が7月3日発足し、6日に初会議を開いた。同法によれば、国安委は中国政府の監督を受けるが、国安委の業務は香港のいかなる機構、組織、個人の干渉も受けず、その決定は司法審査の対象にもならない。香港行政、立法、司法機関の上位に君臨するアンタッチャブルな機関と言える。

 国安委は香港政府トップの林鄭月娥行政長官が主席を務め、政務官、財政官、司法官の上級閣僚や長官弁公室主任(官房長官に相当)、保安局長(閣僚)、警務局長(警察庁長官に相当)、入境事務局長(入管トップ)、税関長らが出席。国安委の事務を統括する秘書長は、中国政府の任命により長官弁公室主任が兼ねた。

 中国政府の香港出先機関である連絡弁公室(中連弁)の駱恵寧主任も「中国政府派遣の国家安全事務顧問」として初会議に列席した。国安法によると、顧問は国安委の事務に関して意見を述べるとされている。

「自由と自治を破壊する手段」

 中連弁主任は閣僚級の中国政府高官で、共産党香港工作委員会の書記(最高責任者)を兼務。中連弁の上級機関である国務院(内閣)香港マカオ事務弁公室の副主任も兼ねている。このような中国高官が同国政府の監督下にある委員会に出るのであるから、肩書は顧問でも実質的な発言力は最も大きいとみられる。

 国家安全保障はあらゆる事象と関わりがある。したがって、中国側は国家安保を理由に、国安委を通じて香港域内の問題に幾らでも介入できるわけだ。国安法には、香港の法律と国安法が一致しない場合は国安法が適用されると明記されている。

 中国メディアは「国安法は昨年の反政府デモで混乱した香港の社会秩序を回復し、国際金融センターとしての地位を安定させるのに役立つ」と主張するが、多くの外国メディアは懐疑的だ。英有力紙フィナンシャル?タイムズは7月2日、「香港の一国二制度の最期」と題する論評を掲げ、「国安法は香港における自由と自治を破壊する手段を中国に与えた」と指摘した。

 なお、社会主義体制の中国では政府は執行機関であり、重要な政策は全て共産党が決める。香港の重大な政治問題に関しては、国務院指導部ではなく、党中央国家安全委や党中央香港マカオ工作指導小組(協調小組から最近昇格)が対処しているとみられる。前者は習近平国家主席(党総書記)、後者は韓正筆頭副首相(党政治局常務委員)が率いている。政策決定は格の高い中央国家安全委が主導しているもようだ。

 中央国家安全委では陳文清国家安全相が弁公室常務副主任(事務局筆頭次長)を兼務。趙克志公安相も委員会メンバーとみられる。趙氏は中央香港マカオ工作指導小組にも参加している。

タカ派の党官僚起用

 7月8日には中国治安当局の香港出先機関である国家安全維持公署が開所式を行った。中連弁、外務省特派員公署、人民解放軍香港駐留部隊に続く中央の出先機関だが、香港域内統治に直接関与する機関は初めてだ。

 国安法によると、国安公署は香港特別行政区が国家の安全を維持する職責を果たすのを監督、指導、調整、支援する。重大事案については「管轄権」を行使できる。その場合は香港ではなく中国の刑事訴訟法が適用される。香港警察は国家安全事案に関して国安公署の監督?指導を受け、事案によっては同公署に捜査を任せることになる。

 初代署長は、香港に隣接する広東省の共産党委員会秘書長(次官級)だった鄭雁雄氏が起用された。党官僚が選ばれたのは国家安全工作に対する「党の指導」を徹底するためとみられる。

 鄭氏はかつて広東省の汕尾市党委書記として、土地強制収容に住民が大規模な抗議行動を展開した烏坎村事件の処理に当たった際、「中国本土外のメディアが信用できるなら、ブタも木に登る」と香港?外国メディアを非難し、タカ派として知られていた。

 鄭氏は習主席派の李希広東省党委書記によって、省党委の幹事長に当たる秘書長に抜てきされた。国安公署署長への起用も習氏好みの対外強硬姿勢が評価されたからであろう。

繁華街近くに中国治安機関

 副署長は李江舟、孫青野の両氏。香港メディアによると、李氏は公安省出身で、同省第1局長(国内安全保衛局長)を経て、在香港連絡弁公室の警務連絡部長を務めていた。第1局は通称「国保」。政治警察に当たる部門で、国内の人権派や民主派から恐れられている。

 孫氏はスパイ摘発や対外情報工作を担当する国家安全省出身。同省は担当閣僚の名前以外の情報を公開しておらず、孫氏の経歴も明らかにされていない。これらの人事によって、国安公署の指導部はタカ派の党官僚を反体制派取り締まりのプロ2人が支える体制となった。

 国安公署は香港島最大の繁華街?銅鑼湾(コーズウェイベイ)近くにある中国資本の大型ホテルを借り上げて、これをオフィスとした。香港の消息筋によると、このホテルはこれまでも公安、国家安全両省の職員が香港出張でよく利用していた。香港を訪れた中国指導者を警護したり、香港民主派の活動をひそかに監視したりするためだ。上層階からは、民主派が大集会を開くビクトリア公園を一望できる。

 国安法が施行され、国安公署が開設された今、中国の治安当局者たちはこれまでと違って香港で公然と活動することが可能になった。しかも、基本法を凌駕(りょうが)する国安法により、彼らは事実上の治外法権を与えられている。

 国安委と国安公署の設置によって、香港の政治体制は「中国化」が決定的に進んだと言えるだろう。(2020年8月3日/解説委員?西村哲也)

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